三十年の歴史をたどる

語り手たちの会から「NPO法人語り手たちの会」へ

三十年の歴史をたどる
            報告・櫻井美紀

 1977年に発足した 語り手たちの会は2008年の7月25日をもって「NPO法人語り手たちの会」に組織を移行いたしました。本会は語り手たちの会の長い活動の歴史を生かして、さらに広い社会への足がかりを求めて新たなスタートを切ったのです。  
 語り手たちの会の発足のとき、11人だった会員は20年目の1999年には360名となり、2008年は420名が会員として籍を置いて、順調に全国(海外にも4名)で会を支える活動を行っています。
 その活動は多岐にわたり、子どものためのお話会・大人のための語りの会・研究会・講座・印刷物の発行・語りの祭りの支援・各地の語りのグループを支援する活動・海外の語り手を迎えるイベントなどを行いました。私たちが全国で語り続けた会で接した聞き手は、述べ数にすると何万にもわたる人々です。

 東京都中野区の中央図書館で担当する月1回のお話会は途切れることなく続いて本会の唯一の子どもと親への語りの会となっていますが、同様のことを全国の公立の図書館のお話会で会員たちが大事な地域活動の語りの事業として行って今日に至っています。
 さらに最近特に増えた活動は高齢者の施設を訪問して語ることで、語りはよい人間関係作りに役立つとともに心の安定を保つ効果をあげています。
 学校や園を訪問してボランティアで読み聞かせをする人も年々増えてきました。そのボランティアをしながら語りに挑戦する人も増え続けています。それらの活動からの要求で1997年から始まった「語り手たちの会十年連続語りのセミナー」は、この時期の特に大きな企画でした。合計8クラスの連続セミナーを開催、1クラスは25人から30人、10年間の修了者は213名となりました。
 発声訓練や表現の技術訓練と昔話の資料研究はもちろん組み込まれましたが、本会のセミナーの特徴は自分の語り口を作ることでした。昔話からの再話研究と自作のショート・ストーリーを作ることが課題に入りました。一期ごとの終了発表会には、涙あり笑いありの苦心の創作の語りが披露され、発表を聞きに集まった会員たちとお客様たちの大きな感動を呼びました。この10年間のセミナーのお蔭で、「語りは自分のことばで語るものだ」というスタンスが築かれたのです。それに加えて人生を語る語り《パーソナル・ストーリー》も欠かせない課題となりました。
 従来の各団体で行われる語り(お話)の講座では再話者(再話作家)の書いた昔話を覚えて語る作業が主となっていましたが、本会では自分の人生を込めた語りを目指します。テキスト丸覚えではなく、口承文学としての語りのアートを追求するセミナーの考え方は、2008年の「語りの基礎講座」にも受け継がれました。本会の講座・セミナーの特徴となって続けられることでしょう。
 語り手たちの会では年間2回の機関誌『語りの世界』を1985年に創刊、本年(2008年)の6月までに46冊を発行しました。会報『太陽と月の詩』は2008年11月までに182号を発行しました。
 語りの楽しさを語り手と聞き手が共有するには、語りの歴史を勉強することと、現代の海外の語りの現状を知ることが大事です。アメリカの語りと出会ったのは1990年頃で、やがて本会で海外のストーリーテラーを迎えてイベントを行うようになりました。海外の語り手たちのストーリーテリングの積極的な表現は、硬直した語りを解きほぐすよい参考となりました。
 本会では積極的に季節の語りの会を開いたり、夜の集会の企画で大人の楽しめる内容のものを揃えたり、女性ばかりの語りの会を脱却して男性も楽しむ語りの会を目指してきました。各地の語りのサークルの活動も32年間に目覚しく発展しました。
 語り手たちの会の運営は事務局・運営委員・世話人など、すべてボランティアの活動で支えられました。関わってくださったすべての皆様にお礼を申し上げます。

(2008年11月、NPO法人語り手たちの会理事長 櫻井美紀)

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