幻想の系譜“月”(文化庁芸術祭参加公演)

幻想の系譜“月”(文化庁芸術祭参加公演)

2009年10月30日、ティアラこうとう小ホールにて
NPO法人語り手たちの会、芸術の語りとしての事業
幻想の系譜“月”(文化庁芸術祭参加公演)は無事終了しました。

「夕顔」の語り手、櫻井美紀さん

「鬼女房」の語り手、君川みち子さん

「高野聖」の語り手、尾松純子さん

★幻想の系譜「月」~公演を終えて  報告:尾松 純子

写真左から
尾松純子(「高野聖」の語り)、櫻井美紀(「夕顔」の語り)、片岡輝(再話・演出)、
君川みち子 (「鬼女房」の語り)、福原徹(笛演奏)

本年度の《芸術としての語り事業》(10月30日、ティアラ江東小ホール)には、290人もの方がお集まりくださいました。140席の小さなホールではありますが、もっと小さく感じられ、息がかかるほどの距離に皆さまがいてくださるような感触の中で、語らせていただきました。
皆さまのお心が〝共に生きる語りの場〟を創り出して下さったに違いありません。ありがとうございました。
今回、三人の語り手が個を保ち、自分の語りの世界をそのまま差し出すように語りました。それぞれが重ねてきた歩みと、それぞれがよって立つ〝今〟から生み出された語りが、時系列をたどるように並びました。でも、構成、演出は、秀逸なオムニバス映画のように、異なる切り口から迫り、それぞれの世界を大きなひとつ(・・・)の中に置いてゆきます。
全く違った声、ことば、立ち方、まなざしをも含めた三者三様の語り――それらが、悠久の時を滑るように移ろう月の光に結ばれ、重ね合わせられていくように……
そして、何より今公演は、再話者と語り手が作品の中でぶつかり合い、溶け合い、共に語りを創り上げていくという過程でもありました。語り手は再話者の再話をその身に受け止め、大きく学び、再話者は語り手の再話に耳を澄まし(おこがましい表現ですが)ひとつ(、、、)の語りを創り上げていきました。もちろん、片岡さんの文学的な質の高さが大きな柱として語りを支えて下さったことは言うまでもありません。
私に限って申しますと……
「えっー? 高野聖~!」
というところから作品とのぶつかり合いが始まりました。片岡さんの再話は見事なものでした。
文学作品として、作者が「どうだ!」と言わんばかりに筆を奮った見せ場を、思い切りよく(大胆不敵に)切り捨てていきます。〝語り〟を熟知している再話者の筆は、この膨大な迷宮のような作品を〝語り〟という一点に集結していきます。そして語り手は、その再話者が切り捨てたものをも語る体に蓄えこみ、語る心に溶かしこみ、そしてイメージの矛盾のすき間を埋めたり、ことばを省いたり、描写を補ったり……編曲者さながらに、微調整を加えながら自分の語りに創り上げていきました。
この公演が、語りの世界を多様に、多彩に広げ深めていくことに繋がることを祈りながら、今後に目を凝らし、耳を澄ませていたいと思います。皆様からいただいたお心とお力に心よりお礼を申し上げます。

*チケットが出来上がって一カ月も経たぬうちに完売となってしまい、たくさんの方々にお断りのお詫びをしなければなりませんでした。申し訳ございませんでした。
もし、ご希望があり、お招きいただけるような機会がありましたら、再演も考えたいと思っています。

(芸術としての語り事業担当理事)


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